台湾で出版されたきらら単行本の話

どうも、かかみです。

皆さんは好きな漫画作品が海外で出版されてる情報について調べたりしますか?

きらら界隈では海外版の単行本を入手するコアファンを時々見かけますね。特に僕のいるhmymb先生界隈では海外版を当たり前のように所持する方が複数人います。凄い恐ろしい

今日はきらら作品を軸として、台湾で出版された漫画のある事情について皆さんに紹介したいと思います。しかしその前に、一つ大切な注意事項があります。自分はあくまでただの一人のファンであり、出版業者とは全く関わったことがありません。この文章は僕の観察によるもの、今までネットで公開された他人の文章、及びそれで形成した共通認識に由来するものです。この前提を常に覚えながら読み進むことをオススメします。

台湾で出版されたきらら作品の現状

まずはこちらの図をご覧ください。

f:id:kakami073:20210216025305p:plain

2021年2月までに日本と台湾で出版されたアニメ化きらら作品の冊数。外伝などタイトルの違うものは含みません。台湾で出版されていないものは省きます。

これはアニメ化作品が存在するKRコミックスのうち、今まで台湾で発売されたことのあるものの出版冊数をまとめた図です。 『みのりスクランブル!』、『ごきチャ!!』、『わかば*ガール』を含めた36作品のうち、29作は台湾でも出版されています。8割越えとは結構な比率ですね。

しかしながら、オレンジ部分だけ長く伸びている、途中で出版されなくなった作品が結構あります。完結作品だけ見ても、最終巻まで出した作品は14作品中5作品だけです。(うち1つが1巻しか出していない『みのりスクランブル!』。)ちなみに『がっこうぐらし!』の最終巻は今月(2021/2)に出版されました。

f:id:kakami073:20210216025355p:plain

上の図から完結作品を抜粋したもの。

これはよくある現象ですか?少なくとも、僕が英語版のウィキペディアできらら作品の記事をランダムに閲覧した所、英語版のある作品は大体最終巻まで、もしくは今でも一定のペースで出版しているようです。つまり、これは一部の地域でしか発生しない特殊な事象かもしれません。即ち、「出版の打ち切り」です。

負のスパイラル:出版の打ち切り

一般に漫画の打ち切りというのは、まだストーリー的には続く予定の作品が、売上の不振や不祥事によって早めに完結もしくは終了することです。ですが、今日話したいのはこれではなく、「出版」自体が打ち切りになることです。簡単に言うと、まだ日本語版の続刊があるのに、それを翻訳して出版することを海外の出版社が拒否することです。次巻の海外出版権を取るか、出版するかは海外側の出版社が決めることなので、最終巻まで出す義務はありません。そして次巻を出さない理由は言うまでもなく、売れないからです。

 

https://www.facebook.com/shonen.kitakaze/posts/4551048121637089

こちらは数ヶ月前に 、台湾の出版社「尖端出版」の編集・Shonen Kitakazeさんが重版の事情について説明した文章です。勝手ながら、この文章の一部を翻訳・再解釈させていただきます。

 

重版には、印刷の材料費、在庫コスト、前払いを含めた版権代(印税)、宣伝などに使う素材費などのコスト負担があります。例えば、150元(台湾ドル)の非人気作品続刊で、4000冊の印税前払いをして、印刷コスト35元で800冊刷りました。素材費を10000元、印税率を8%、卸値価格を60%とする時、完売した時の収入は150×60%×800=72000元で、コストは150×8%×4000+10000+35×800=86000元なので、14000元の赤字となります。これは運輸、在庫、出版業従業員のコストを考慮しない場合の値です。

 

よく見ると気付くのですが、800冊売ってなお赤字になるのは、先に4000冊の印税を払わなければならないのが原因なんです。これは日本側の出版社もコストや利益など色々考えた結果となります。売れない本はどうあがいても赤字なので、出しても稼げない作品が打ち切りになるのは僕は商業的には合理であると、仕方がないと思います。

ただ、このような仕組みは、読者側から見てとても厄介なことです。次巻の出版が打ち切りになると、日本語が読めない読者達は置いてけぼりにされます。打ち切りはもちろん明言できることではありません。「暫く出ない」と「永遠に出ない」のどちらかわからないまま、外国語(自分の母国語)版を読みたい読者は次巻の情報を何の手探りもないまま待つことしかできません。日本語が読める読者からすると、残った部分を日本語版で買っても統一感じがなくなるし、本の鑑賞と保存としての価値も一部失います。特に「保存用」の購入としては、全巻揃うことでしか生まれない価値と満足感があります。

f:id:kakami073:20210217172112j:plain

自宅の『ハナヤマタ』全10巻。台湾では7巻までしか出版されていないので8巻以降は日本語版を入手しました。こう見ると7巻までの日本語版も入手したくなる。

 

そうなると、読者にはある考えが心の中から生まれます。

 

「だったら、最初から日本語版を買えばいいじゃん。」

 

出版の打ち切りが頻繁に行われた結果、読者達もそれに対応し、「最初から日本語版しか買わない」や、「最終巻出るまで買わない」などの購入習慣を身につけた人も多くなりました。結局は勿論、漫画が更に売れなくなり、打ち切りも多くになる一方です。

特にこの現象は、マイナー作品への影響が大きいです。週刊少年ジャンプとかで連載されている作品は読者層が厚い分、打ち切りの対象には相対的になりにくいです。きらら誌とかの連載作品は、所謂「人気作品」じゃないと、打ち切りにされる可能性が高いです。また、全2~3巻の作品は最後まで出すハードルが低いので出版社側からしては出す意欲はあると思われるけど、アニメ化作品など5巻以上出してるものは逆に一番打ち切りの対象になりやすいと僕は思います。

打ち切りになる作品、打ち切りにならない作品

f:id:kakami073:20210217182101p:plain

独断で分析した36作品の出版現状。前巻の出版日やアニメ放送時期なども判断要因に入ります。

こちらは、僕が独断で分析・分類した、36作品の出版現状です。左に行くほど、打ち切りになる心配のない作品です。特に最近気になるのは、2017年11月に1巻を出された『おちこぼれフルーツタルト』が、アニメ放送の流れに乗って新刊が出ていないことです。よっぽど売上の見込みが良くなかったのか、結構心配しています。

こうして見ると、作品の人気自体はやっぱり結構重要な役割を担ってるとわかります。一つ自分の実体験を例に挙げると、『あんハピ♪』と『ゆるキャン△』は台湾では同じ出版社から出ています。2016年11月に『あんハピ♪』1巻、2018年2月に『ゆるキャン△』1巻がそれぞれ出版され、翌月に『ゆるキャン△』2巻が来たときに僕は「『あんハピ♪』2巻まだ出してないのに・・・」と少し愚痴をこぼしました。そしてこの愚痴は、『ゆるキャン△』3巻、4巻、5巻、6巻、7巻と、こっちの巻数が増えつつも構文が全く変わりませんでした。2019年5月、待ちに待った『あんハピ♪』2巻が来てこのネタもやっと封印できましたが、現状は上の表のように、3巻以降は未だに不明の状態でした。

 

↑『ゆるキャン△』台湾版7巻出た当時のきらら読者K氏のツイート

 

しかしながら、必ずしもそういう法則で決められたわけでもありません。例えば、『きんいろモザイク』が2冊しか出てないのは結構謎だと、僕以外にも結構そう思いている方が多いのでしょう。ちなみにこの2冊は現在売り切れていおり、重版の可能性もほぼないと言い切れます。

また、出版社によっては画集や、(日本の)違う出版社の同じ作者の作品やを出版するなど、結構「作者を推してる」イメージがあったりします。こういう作品は僕の中では打ち切りになりにくいと考えています。

打ち切りと供給数のジレンマ?

実際のところ、打ち切りが多いのは、そもそも作品数が多いことが理由なのでは?僕の調査でデータに集計してあった、台湾で出版されたきらら作品は約190作品でした。(違うタイトルのものを別として集計している。)直接に換算すると、全体の4分の1です。その中、約100作品は全巻もしくは最新巻まで出版されたもので、そのうちの4分の1は3巻以上出版されたものです。また、台湾で出版された作品のうち、日本で3巻以上出版された作品は99作品で、そのうち台湾で最新巻まで出版されました作品、で集計すると同じくほぼ4分の1でした。4分の1言い過ぎてややこしいです。

f:id:kakami073:20210228044330p:plain

簡単な統計データ。きらら公式サイト(dokidokivisual.com)では一部初期の作品が掲載されていないのでそのうち調査します。ご了承ください。勘違いでした。

ちょっと語彙力がなくて説明が雑でしたが、結構の量(189作)のきらら作品が台湾で出版されたことはわかりやすいと思います。こんだけ作品があると、売れない作品があってもおかしくないじゃないですか?これを全部「最新巻まで出せ」とどうしても言いたいですが、萌え・日常系4コマもしくはストーリー作品は海外では日本以上にマイナーなジャンルですし、全巻出す前提でバンバン出版すると最終巻が出る前に出版社が赤字で倒産します。

全巻出す前提でマシな選択肢を取ると、出版社は大人気作品じゃない限り、1巻すら出さなくなることになります*1。つまり、全巻出ることを出版社に要求したら、上記の表で見たアニメ化作品は左半分以外出版されなくなります。良い作品に出会うチャンスも減ります。それは、読者にとって相当残念なことです。

 

docs.google.com

2021年2月時点のデータを公開しています。近いうちにまた更新するかもしれません。

結論

台湾では相当な数のきらら作品が出版され、そのうち相当な数の作品が実質打ち切りになりました。これは、「作品が売れて出版社が稼げるチャンス」「読者が良い作品に出会えるチャンス」を多めにした結果です。現実には、「多くの作品が出版されどれも最新巻まで出される」という選択肢が存在しません。「多くの作品の1巻が出版されそのうちの一部だけ出版続行」と「確実に売れる作品だけ出版されどれも最新巻まで出される」の2択、もしくはその間のバランスポイントしかありません。僕たち読者ができるのは、好きな作品の単行本を買って、売上に貢献する行動で応援するしかできません。この2年間僕が台湾で出版されたきらら作品新刊を全部入手しようとしてる一番の理由も、貢献のためです。

日本も同じではないのでしょうか?もし出版社は雑誌連載で人気のある作品しか単行本化しなかったら、とても悲しいことじゃないですか?チャンスを多く与えられた分、自分の(財)力で好きな作品を応援しましょう。

 

僕も、芳文社に貢献するためにもっとお金が欲しいです。はい。(終)

 

*1:実際、海外の出版社は日本の出版社に1つの作品の海外出版の許可を取るとき、複数作品をまとめて取ることを要求される場合があるらしいです。「大人気作品だけ出版権もらうぞ!」みたいな考えは通らないらしいです。商売ですからね。